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01.東山は名探偵 [蒼ざめた微笑]

アニメ「金田一少年の事件簿」 DVDコレクターズBOX


 その年の二月は寒くなったり、暖かくなったり、気まぐれな天候だった。雪も例年に比べて、やけに多かった。

 私は毎日、事務所で退屈していた。

 天候に関係なく、懐具合は寒かった。世間は不景気になり、余計な出費を控えている。さらに、長野ではオリンピックをやっていて、皆、テレビにかじりついている。私に仕事を依頼する奇特なお客様は一人もいなかった。このまま行けば干乾しになってしまう。春になったら、転職しようかと本気で考えていた。

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02.お姉ちゃんは美大生 [蒼ざめた微笑]

グローバーオール ヘリンボーンダッフルコート



 メダルを期待していた男子回転競技の木村は残念ながら十三位に終わってしまった。

 オリンピックもいよいよ、明日で終わる。今回の主役は何と言ってもジャンプの原田だろう。声も出ない程に男泣きをしながら喜んでいたあの姿は日本中を感動させた。その姿をその夜のテレビで見た私は四年前の原田を思い出すと共に、自分の姿も思い出した。あの頃の私は荒れていた。毎日、酒を浴びるように飲んでいた。原田が辛かったように、私も私なりに辛い思いをしていたのだった。

 今日も何事もなく終わりそうだ、とうんざりしていた四時頃、遠慮がちにドアをノックをする者があった。

 また、東山か、とドアを開けると、真面目そうな娘が立っていた。

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03.引越し先はフランス風 [蒼ざめた微笑]

トリコロールに燃えて



 竹中冬子が前に住んでいたアパートは私の事務所の裏の方にあった。歩いて、五、六分という所だ。

 古い一軒屋が建ち並んでいる中に、同じく古い木造二階建てのクリーム色のペンキの剥げかけた、そのアパートはあった。門の所に大きく『虞美人荘(ぐびじんそう)』と書いてある。家主はユーモアと教養のある人間らしい。

 裕子は途方にくれて、この虞美人荘から去る時、私の事務所の看板を見た。薄いグリーンの地に青く洒落た字で『日向探偵事務所』と書いてある。近くで見ると『日向』という所を後から貼り付けた事が分かる。以前は五月という人が事務所の所有者だったそうだが、私は会った事もない。私は二代目の所有者から譲られた。

 裕子にとって、その事務所に入ろうか入るまいか、それが問題だったそうだ。もし、そこに顔に傷のある、とぼけた目をした人相の悪い男がいたら、間違いましたと言って出て来ようと決心して、恐る恐るドアをノックしたらしい。ところが、そこにいたのは優しそうで頼りがいのあるお兄さんだったというわけだ。いや、裕子から見たら、おじさんだったのかもしれない。

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04.黒づくめの美女はピアニスト [蒼ざめた微笑]

カインド・オブ・ブルー / マイルス・デイヴィス



 冬子が帰って来たのは六時半頃だった。

 私はホッと胸を撫で下ろした。これで、女子高生のお守りから解放される。

 私たちはレストランを出ると、マンションに向かった。

「あのう、どうして、ジープに乗ってるんですか?」と裕子が不思議そうに聞いた。

「安かったんだよ。買った時は夏だったしね」

「でも、目立ち過ぎるんじゃないんですか?」

「それは言える。でも、これを買った時、まさか、探偵になるとは思ってなかったからな。目立たない車に替えようとは思うんだが、結構、丈夫でね。なかなか手放せないんだよ」

「そうですか‥‥‥でも、尾行なんかもするんでしょ?」

「時にはね。だけど、テレビや映画みたいに車で追いかけっこするような事なんて滅多にないんだよ。追いかけて行ったとしても駐車する場所を見つけてるうちに逃げられちゃうんだ。一人だけでは、とても、追跡なんてできない。私の仕事はもっと地味で、自分の足で稼がなければならないんだよ。時には頭も使うけどね」

「そうですか‥‥‥この車なら、どんなとこにも行けるんでしょ?」

「まあね。しかし、乗り心地はあまりよくないだろう。冬になるたびに替えようとは思うんだけど、春になると忘れちまうんだ。とにかく、動けばいいんだよ」

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05.ティファニーで朝食を [蒼ざめた微笑]

マリリン・モンロー ポスター



 目が覚めた時、左腕の時計は九時を過ぎていた。また、寝坊だ、と慌てて起きたが、今日は日曜日だった。

 散らかしっ放しの部屋のベッドの上で、服を着たまま寝ていた。夕べは少し飲み過ぎたようだ。頭が空っぽのわりには重過ぎる。

 マリリン・モンローがポスターの中でウインクをしていた。私は、やめてくれ、と叫んだ。かすれた声だった。マリリン・モンローがゲラゲラ笑った。笑うはずはなかった。まだ、酔っているらしい。

 よく冷えた水を飲みながら考えた。昨日、あるいは今朝かも知れないが、キセルを持った仙人と竜宮城に行って、乙姫様の奪い合いをしたような微かな記憶があるが、よく覚えていない。

 取り合えず、熱いシャワーを浴びて、さっぱりした。コーヒーを飲もうと思ったら、からっぽだった。一服しようと思ったら、タバコもなかった。どうせ、する事もないし、もう少し寝るかと思ったが、タバコの誘惑に負けて、外に出た。

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06.『赤い風車』にいた歯医者 [蒼ざめた微笑]

赤い風車



 オリンピックも終わって、何の変哲もない火曜日だった。

 窓の外では霧雨が音もなく降っている。

 昨日は一日中、冬子と裕子のお守りをしていた。二日酔いと寝不足で、しけた面して事務所に行くと、すでに二人は待っていた。この間のお礼と言って、五万円も出したため、私は二人を連れて観光巡りをしなければならなくなった。その五万円は裕子が静斎から旅費として貰ったものだが、裕子が受け取らないので、私の所に回って来たと言う。

 私としても、あんな仕事で五万も貰えないと言うと、それなら、二人のボディガードをやってくれと言う。これも仕事なのだと割り切り、ケビン・コスナーを気取って二人に付き合った。要するに、おかかえ運転手に雇われたわけだ。

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07.可愛い小悪魔に誘われて [蒼ざめた微笑]

モディリアーニ 真実の愛



 どこといった特徴のない二階建ての古いアパートだった。目的の部屋は一階の右から二番目だと歯医者は言っていた。

 表札はなかった。ノックをしてみた。返事はない。昼間から部屋にいるとは思っていなかったが、やはり、いなかった。帰って来るまで見張らなければならないのか、とドアの取っ手を回してみると、鍵が掛かっていなかった。

 私は回りを見回してからドアを開けて中に入った。

「何だ、こりゃ」と私は思わず言った。

 あの歯医者は、ごく普通の部屋だと言った。確かに、前はそうだったのかもしれない。しかし、今は、ごく普通どころではなく、メチャメチャに荒らされていた。

「奴らか?」

 奴らの仕業に違いなかった。奴らはモデルから聞き出して、ここを捜し出したに違いない。

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08.消えた気まぐれ天使 [蒼ざめた微笑]

Francesco Biasia A76504/BK


 電話のベルで起こされた。

「朝ですよ、日向さん、起きて下さい。勝俊さん、朝ですよ」

 冬子の声だった。

「モーニング・コールを頼んだ覚えはないぞ」と私は寝ぼけた声で言った。

「なに言ってんです。必ず、七時半に起こしてくれって言ったくせに」

 そんな記憶はなかった。

「あっ、覚えてないんでしょ?」と冬子は笑った。

「君をタクシーに乗せた所まで、ちゃんと覚えてるよ」

「なに言ってんです。あなたは強引にあたしをうちに連れて行こうとしたんですよ。あたしは振り切って逃げて、タクシーに乗ったんじゃないですか」

「俺は君に何かしたのか?」

「無理やり、キスしました」

「それで?」

「体にもさわりました」

「そうか、きっと、君が可愛い過ぎたんだよ」

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09.さまよえる野良猫 [蒼ざめた微笑]

ヤマハ トランペット Xeno YTR-8335GH



 多摩川の土手の上を大きな犬に連れられて、小さな女の子が散歩している。大きな犬は可愛い主人を守る騎士のように、辺りに目を配りながら気取って歩いている。可愛い主人は何か大事な事を考えているらしく、俯きながら犬の後を歩いていた。

 頭のはげかかった痩せた男が白い息を吐きながら、伜(せがれ)のお下がりの青いトレーニングウェアを着て走っている。長年の経験から走る事が自分の体質に合っている事を知っている、慣れた走りっ振りだった。

 平野雅彦の住所は、多摩川からすぐそばの古ぼけた建物がぎっしり建てこんでいる中にあった。トルコ・ブルーのペンキで塗られ、他の建物よりは新しく見えた。アパートの前の狭い駐車場が空いていたので、そこにジープを止めた。二階の中程の部屋の表札に下手くそな字で、平野と書いてあった。

 私はノックした。

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10.モーツァルトに捧げる [蒼ざめた微笑]

ピリス モーツァルト:ピアノソナタ全集



 お婆さんが二人、日の当たるベンチに腰掛けて話をしていた。太ったお婆さんと痩せたお婆さんだったが似たような顔をしている。数え切れない苦労を深いしわの間に隠して、幸福そうに笑っていた。

 私はジープを道路脇に止めて、携帯電話で山崎を呼んでいた。ベルが八回鳴った後、山崎の寝ぼけた声が聞こえて来た。

「今、何時だと思ってるんです?」と山崎は文句を言った。

「お前にとっちゃあ、まだ、夜中だろ。たまには朝の空気を吸ってみろ。気持ちいいぜ」

「分かってますよ。今朝だって、日の出を拝んでから寝たんですよ」

「頑張ってるらしいな。傑作は描けそうか?」

「時間が足らないですよ。本当は寝る暇なんかないんだけど体の方が利かなくなっちまった。もう、年です。何か用ですか?」

「藤沢隆二から何か連絡、あったか?」

「いや、ないですけど、どうしたんです?」

「奴は静斎の伜だったよ」

「まさか、そんな‥‥‥静斎が言ったんですか?」

「娘の恋人から聞いたんだよ。だけど、確かだぜ。隆二は間違いなく静斎の伜さ」

 しばらく、山崎は電話の向こうで驚いていた。

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